PDF/AとPDF/Xの違い:長期保存用PDFと入稿用PDFは何を求めているのか
PDF/Aがフォント埋め込み・暗号化禁止・カラープロファイルを求める理由、パート1〜4の違い、米国国立公文書館・韓国の公文書制度・スペインLexNETが実際に求めていること、印刷所がPDF/Xを求める理由とveraPDFでの検証方法。
PDFは「どのパソコンで開いても同じ見た目」という約束で広まった形式です。ところが実際には、その約束はよく破られます。フォントを埋め込まず「MS明朝を使う」と名前だけ書いたPDFは、MS明朝のない環境では別のフォントで表示されます。JavaScriptで日付を入れるフォームは、開くたびに内容が変わります。ウェブ上の画像をリンクで読み込むPDFは、そのサーバーがなくなれば空白になります。
PDF/AとPDF/Xは、こうした穴をふさぐために作られた「PDFのサブセット」です。どちらも新しいファイル形式ではなく、通常のPDFが許す機能の一部を禁止し、一部を必須にした規則の集まりです。違いは目的にあります。PDF/Aは数十年後も同じ見た目で開けること、PDF/Xは印刷機から意図した色と大きさで刷り上がることを目指します。
PDF/Aが禁止するもの、求めるもの
PDF/Aの規則のほとんどは「ファイルの外に頼らない」「解釈の余地を残さない」という2つの原則から来ています。
フォントはすべて埋め込む。 ページに描かれるすべての文字のフォントプログラムがファイル内になければなりません。30年後のOSにどのフォントが入っているかは誰にも分からないからです。HelveticaやTimesなど、いわゆる標準14フォントも例外ではありません。
暗号化は禁止。 開くためのパスワードはもちろん、印刷やコピーだけを制限する権限パスワードも認められません。数十年後にパスワードが分かっている保証も、その暗号方式を扱えるソフトが残っている保証もないからです。アクセス制御はファイルではなく保存システム側で行う、というのが規格の立場です。
色は機器に依存しない形で定義する。 RGB(255,0,0)の赤はモニターごとに違う赤です。PDF/Aは出力インテントにICCカラープロファイルを入れるか、各色をICCベースの色空間で指定することを求めます。そうすれば遠い将来のビューアも、その数値をどんな色で描くべきか分かります。
実行されるものを入れない。 JavaScript、外部プログラムの起動、音声や動画は禁止です。文書は「描かれたとおり」でなければなりません。
メタデータはXMPで残す。 タイトル、作成者、そしてこのファイルがPDF/Aのどのパート・レベルに従うかという宣言(pdfaid)をXMLのメタデータとして入れます。
ここでよくある誤解があります。ビューアのプロパティに「PDF/A」と表示されたり、上部に「このドキュメントはPDF/A規格に準拠しています」というバーが出たりするのは、このXMPの宣言を読んだというだけです。宣言は誰でも書き込めますし、宣言だけあってフォントが埋め込まれていないファイルも珍しくありません。適合性は内容を検査して初めて分かります。
パート1からパート4まで
PDF/AはISO 19005という番号で、ベースとなるPDFのバージョンに応じてパートに分かれています。
| パート | 発行 | ベース | 特徴 |
|---|---|---|---|
| PDF/A-1 | 2005 | PDF 1.4 | 透明効果・レイヤー・JPEG 2000を禁止。最も厳格で古い |
| PDF/A-2 | 2011 | PDF 1.7(ISO 32000-1) | 透明効果・レイヤー・JPEG 2000を許可。PDF/Aファイルの添付を許可 |
| PDF/A-3 | 2012 | PDF 1.7 | PDF/A-2と同じだが、任意形式(XML、表計算など)の添付を許可 |
| PDF/A-4 | 2020 | PDF 2.0(ISO 32000-2) | a・b・uの代わりに基本形と4f(添付)、4e(エンジニアリング) |
パート1〜3にはレベルを示す文字が付きます。b(basic)は見た目の再現だけを保証します。u(パート2から)はすべての文字をUnicodeに戻せることを加え、検索とコピーが正しく動くようにします。a(accessible)はさらにタグ構造を求め、スクリーンリーダーが読み上げ順や見出し・表を把握できるようにします。
PDF/A-3が生まれた背景には、電子インボイスのように「人が読むPDFと機械が読むXMLを1ファイルで」送りたいという要望がありました。ドイツ・フランスのZUGFeRD/Factur-Xがこの方式です。ただし添付されたXMLや表計算ファイル自体の長期保存は保証されないため、アーカイブ側はパート3を慎重に扱う傾向があります。
スキャン文書ではレベルが特に重要です。画像だけのスキャンPDFでもPDF/A-1bや2bにはなれます。フォントも透明効果もないからです。しかし文字を検索できないので、「検索可能なPDF/A」を求められる場面ではOCRでテキスト層を入れる必要があります。
誰がPDF/Aを求めているのか
「役所はPDF/Aを使わなければならない」という言い方は広すぎます。確認できる要件は、たいてい特定のシステムに提出する、または特定の機関に移管する時点に結び付いています。ここでは一次資料で確認できた例だけを挙げます。日本の行政文書や裁判所の電子提出について、PDF/Aを一律に義務付ける規定はこの記事では確認できませんでした。
米国の連邦記録。 米国国立公文書記録管理局(NARA)は、各機関が永久保存記録を移管する際に受け入れるファイル形式を表にまとめています(Bulletin 2014-04)。テキスト文書の区分では、PDF/A-1とPDF/A-2が推奨形式、通常のPDF(1.0〜1.7)が許容形式です。通常のPDFも受け付けますが、PDF/Aが優先されます。
韓国の公共記録物。 韓国の公共記録物管理法施行令第36条第1項は、保存期間10年以上の公共機関の電子記録物を文書保存フォーマットと長期保存フォーマットに変換して管理するよう定めています。韓国国家記録院は2008年にPDF/A-1を文書保存フォーマットとして公共標準に制定しました(韓国記録管理学会誌の論文より)。これは機関内部の保存手続きの規定で、市民の提出書類をPDF/Aにせよという意味ではありません。
スペインの裁判所電子提出(LexNET)。 法務省管轄の裁判所の電子通信システムLexNETを定めた王令1065/2015の附属書IVは、「提出物の主文書はOCRの特性を備えたPDF/A形式で提出しなければならない」と定めています。パートやレベルの指定はありませんが、検索可能なテキストが条件なので、スキャン画像をPDF/A-1bで包んだだけのファイルは要件を満たしません。
いずれの場合も期待されているのは「PDF/Aと宣言されたファイル」ではなく「検証に通るファイル」です。アーカイブのシステムは移管の時点で形式を検証し、不合格のファイルは差し戻すか再変換します。
PDF/X:印刷所が求めるもの
PDF/X(ISO 15930)の関心は保存ではなく印刷事故です。印刷所が最も恐れるのは、フォントが化けて刷られること、モニターで見た色とまったく違う色が出ること、断裁後に端に白い線が残ることです。
そのためPDF/XもPDF/Aと同様にフォント埋め込みと暗号化禁止を求めますが、色の要求はより具体的です。出力インテントにどの印刷条件を前提に作ったファイルかをICCプロファイルで示す必要があります。日本のオフセット印刷ではJapan Color 2011 Coatedがよく使われ、欧州ではFOGRA系、北米ではGRACoLやSWOPの条件が一般的です。さらに各ページに仕上がりサイズを示すTrimBoxと、断裁のずれを吸収する塗り足し領域を示すBleedBoxを設定します。日本の入稿で「塗り足し3mm」と言われるのがこれです。
よく使われる2つの版は性格が異なります。
- PDF/X-1a:2001 はすべての色がCMYKと特色に分解済みであることを求め、透明効果とレイヤーを禁止します。印刷所が受け取った時点で「もう決めることがない」ファイルで、古い出力環境との互換性が最も高い形式です。
- PDF/X-4 は透明効果、レイヤー、RGBやLabなどのICCベースの色をそのまま残し、最終出力機(RIP)が印刷条件に合わせて処理します。透明効果を事前に分割・統合する際に起きる細い線や文字の太りを避けられるため、最近のワークフローでは推奨されることが多くなっています。
印刷所の入稿ガイドに「PDF/X-1aで」とあれば、その印刷所の環境が透明効果を直接処理しないというサインと読めます。X-4を受け付ける印刷所にX-1aで送っても通常は問題ありませんが、透明の分割・統合で品質がわずかに落ちることがあります。
モノクロ印刷物なら、色空間そのものを整理するのも手です。カラーで作った文書をモノクロの工程に回すと、黒い文字がCMYK 4色を重ねた「リッチブラック」で刷られ、にじんだりインクを無駄にしたりします。PDFグレースケール変換にはページ全体をグレーにするモードと、黒文字をK単色に整えるモードがあります。
PDF/Aとアクセシビリティ
PDF/A-1aや2aはタグ構造を求めるので「アクセシブルなPDF」と思われがちです。しかしaレベルは構造が存在するかを見るのに近く、図の代替テキスト、表の見出しセル、見出しレベルの飛びまで問うのはアクセシビリティ専用の規格PDF/UA(ISO 14289)です。2つは競合せず、1つのファイルがPDF/A-2aとPDF/UA-1を同時に宣言することもできます。
保存する文書を公的なウェブサイトにも掲載するなら、形式の検証とは別にPDFアクセシビリティチェックでタグ・言語・代替テキストを確認しておくとよいでしょう。
変換より検証が難しい
通常のPDFをPDF/Aに「変換」するツールは数多くあります。多くは禁止要素を削除し、出力インテントとXMPの宣言を入れます。ここまでは難しくありません。難しいのは、自動で直せない問題を正直に知らせることです。埋め込まれていないフォントは、元のフォントファイルがなければ後から入れられません。このときツールが取れる道は、失敗を報告するか、そのページを丸ごと画像にするかの2つです。後者は検証を通しますが検索可能なテキストを失い、LexNETのようにOCRを求める提出先では、規格を守るために要件を破ることになります。
そのため検証は変換ツールから独立した検査器で行うのが原則です。代表的なのがveraPDFです。EUのPREFORMAプロジェクトの支援を受け、Open Preservation FoundationとPDF Associationを中心に開発されたオープンソースの検証ツールで、PDF/Aのすべてのパートとレベルについて、ISOの条項単位で合否を示します。コマンドラインで verapdf --flavour 2b ファイル.pdf のように実行でき、アーカイブでの大量移管の検査にも使われます。PDF/Xは無償の検証ツールが少なく、印刷所ではAcrobatのプリフライトやcallas pdfToolboxなどの商用ツールに頼ることが多いです。
このサイトのPDF/A変換も、変換後にコードを共有しない別の検査器で出力を読み直して条項ごとの結果を示しますが、グリフ幅の一致やXMP拡張スキーマなど検査しない項目があります。提出がかかったファイルなら、最後はveraPDFで確認してください。
実務での手順
- 元のアプリでフォント埋め込みを有効にして書き出す。 PDF保存のオプションに「フォントを埋め込む」や「PDF/A準拠」があれば有効にします。変換ツールが後から直せない問題の多くはここで解決します。
- 署名は最後に。 PDF/A変換はファイルを書き直すため、それ以前の電子署名は無効になります。
- 提出先が求めるパートとレベルを確認する。 指定がなければ2b(検索が必要なら2u)が無難です。
- 独立した検証ツールで確認する。 ビューアの「PDF/A」表示は証拠になりません。
- 印刷用は印刷所のプロファイルでPDF/Xを作る。 sRGB前提の保存用PDF/Aをそのまま入稿すると、実際の印刷条件に合わせた色変換がされないまま出力されることがあります。
出典
- ISO 19005-1:2005 (PDF/A-1)
- ISO 19005-2:2011 (PDF/A-2)
- Library of Congress — PDF/A-3 format description
- Library of Congress — PDF/X format family
- ISO 15930-7:2010 (PDF/X-4)
- NARA — Format Guidance for the Transfer of Permanent Electronic Records
- 韓国記録管理学会誌 — 電子記録物の長期保存のための保存フォーマット選定に関する研究
- BOE — Real Decreto 1065/2015 (LexNET) 附属書IV
- veraPDF